人間の『性的嗜好』には「正常」、いわゆる「ノーマル」と考えられるものがありますが、一方でそれ以外は「特殊」なものだと考えていました。
しかし朝井リョウさんの小説『正欲』を読み、読む前と読んだ後、世の中の見え方が変わってしまった、そんな読書経験をしました。
『正欲』は社会的には問題作と言われる面がありますが、本書はただの問題作にとどまらず、社会が見過ごしてきた“声なき悲鳴”に光を当てる挑戦的な作品だと私は感じました。
たくさん読んできた中で、特に記憶に残る一冊でした
作品の概要とテーマ
朝井リョウさんといえば、鋭い視点で社会や人間関係を描く作家ですが、『正欲』ではさらにその視点を深め、社会が持つ“性的嗜好”や“性”に関する固定観念を問う。
物語の中で描かれるのは、単純なLGBTQの問題だけではありません。
むしろ、社会的に受け入れられ難い“性的嗜好”というものの、存在について提示された物語です。
LGBTQには収まらない人たちの物語で、これまでの考えを根底から見直すきっかけとなりました
衝撃を受けたポイント
本書を読んで考えさせられたのは、自分がいかに無意識のうちに『普通の性的嗜好』を決めつけていたかに気づかされたことです。
この作品を読む中で、自分の中に眠る偏見や無知が浮き彫りになり、「井の中の蛙」であったかを痛感しました。
同時に、登場人物たちの葛藤を通して、社会がいかに彼らを押しつぶしてきたか、声をあげても到底届かない苦しみを彼らは抱えて生きているか、そういったことを考えさせられました。
LGBTQへの理解の深化
LGBTQという言葉自体はもはや一般的ですが、『正欲』を通じて感じたのは、必ずしも、誰もがひとまとめにカテゴライズされることを望んでいるわけではない。
さらに深い個々の欲望や苦しみがあることに気づかされました。
「LGBTQという区切りは、いわゆるノーマルの立場にある人が、自分は普通だという安全地帯からマイノリティーの人々をどこか見下し勝手にカテゴライズされた言葉である」、という登場人物の言葉に、深い関心を覚えました。
いわゆる「普通の人」が自分は安全地帯にいながら、そうでない人を勝手にカテゴライズしている、という考え方に衝撃を受けました
この本を読むことで、私自身のLGBTQに対する考え方がより私の中で立体的になりました。
社会が抱える“声なき悲鳴”
特に印象的だったのは、特殊な性的嗜好を抱える孤独や悲しみの描写です。
自分にとっての「自然な欲求」が社会では「犯罪」と評される苦しみ。
誰もが満たすことができる基本欲求を満たすことを許されない人々の苦悩。
この本を読んで、私たちが無意識のうちに見逃している『声なき悲鳴』に耳を傾けることの重要性を思い知らされました。
映画『正欲』について
本作は映画化もされており、今では各サブスクサービスによって配信されています。
稲垣吾郎さん主演の映画『正欲』は、2023年11月10日に劇場公開され、多様な価値観や欲望を描き出す衝撃的なストーリーが話題となりました。
豪華キャストには、稲垣吾郎さん(検事・寺井啓喜役)をはじめ、新垣結衣さん、磯村勇斗さんらが名を連ねています。
主題歌はVaundyさんの「呼吸のように」で、作品の世界観をさらに深めています。
配信中のサブスクリプションサイト
映画『正欲』は以下の映像配信サービスで視聴可能です。
- Netflix(2024年3月10日より配信開始)
- Amazon Prime Video
- U-NEXT
- Hulu
- dTV
- Rakuten TV
また、日本映画専門チャンネルやスカパー!でも放送されています。
スカパー!では2025年1月28日(火)8:20~11:00に放送予定です。
多様性と人間の欲望を鋭く描いた本作を、ぜひお楽しみください
まとめと感想
『正欲』は読む人の価値観を根本から揺さぶる作品だと感じました。
私自身、この本を読む前と後で、世界の見え方が変わった気がします。
性の対象や社会の規範、そして個々の苦しみについて改めて考えさせられました。
小説で量は多少多いように感じましたが、私にとっては必要な一冊だったと言えます。
読者への問いかけ
あなたにとって『普通の性的嗜好』とはどのようなものですか?そして、その価値観を揺さぶられる準備はありますか?
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